
ドンっド、ドンっ、ドンっドン。
きび団子屋さんは、手押し車にぶら下げた太鼓の音とともに、
いつもふいに、街角に現れた。
その音は、
いつもながらの退屈な街の喧騒を、
(車の音や、町工場の機械の音や、建築現場のハンマーの音を…)
いとも簡単にくぐりぬけて、僕らの耳に届いた。
手押し車は、太鼓の音に遅れて、角をまがってくる。
湯気があがっている。
いつもの、腰のまがりかけたおじいちゃんが、
子供たちに、愛想のあるようなないような顔で、現れる。
十円玉を握り締めた僕らが、おじいちゃんと手押し車の周りに群がる。
三十数年前の、ある日の記憶。
その日もこんな、秋晴れの日だったかも知れない。
向島の吉備子屋さんのお陰で、
下町にきび団子屋さんが、復活した。
その味は、不思議なほどに、昔と変わりなく
(懐かしい味の多くが、今食べると色あせてしまったりするのに)
ささやかに幸せになれる味である。
昔の手押し車には、
団子を包む半紙(懐紙?)や、キナコをいれる小引き出しがついていたような記憶があるが
多少、趣がかわったものの、
その湯気は、同じである。

きび団子、玄米パン、飴細工、紙芝居、ポン菓子…
「まれびと」のように昔、この町にやってきてくれたエンターテイメントに
僕らはどれほど心を動かされ、
そして至福の時を味あわせてもらったことだろうか。
いま時風に復活したきび団子屋さんは、
けれども、まったく変わらずに、
僕や、僕の息子や、町の人たちを、楽しませてくれている。

半日おいて、少し硬くなったきび団子を食べた満二歳の息子が
かたことの言葉で、言った
「かたいっ...おいしいっ。」
2001/11/16